書評:とことんやさしい宇宙線と素粒子の本





書評:とことんやさしい宇宙線と素粒子の本
   山崎耕造著、 日刊工業新聞社
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 キリスト教は「終末論」で信者を増やしてきた宗教であり、初期の終末論として有名な「ヨハネの黙示録」(執筆年代はローマ皇帝ドミティアヌスの治世(西暦81年〜96年)の末期といわれる)は、遠い未来の話では無く、当時キリスト教を迫害していたローマ帝国が神の怒りに触れて滅亡し、キリスト教徒が救われるというリアルタイムの話(いろいろな説がある)であった。

 しかし、その後なんとコンスタンティヌス1世は、311年に「ミラノ勅令」を発布。325年にはニカイア公会議を開催してキリスト教を国教化している。

 さらに西暦1000年のミレニアムには、終末論が再び高まり、贖罪のために全財産を貧者にばら撒いた金持ちも少なく無かったようだ。

 西暦2000年の際にも、Y2K問題というコンピュータプログラムに関わる一種の終末論が流布したが、まったくの空騒ぎに終わった。

 その他惑星が地球に衝突する「ハルマゲドン」など、「人類滅亡」「地球滅亡」は我々をひきつけて離さないテーマであるが、そのような終末論のすべてが外れたからこそ、我々人類はいまだに存在しているのだ。


 だから「終末論」には警戒しなければならないが、地球に生命に誕生したとされる38億年前から、今日までに生命の大量絶滅は5回あったと考えられる。

 また、マヤ、インカ、イースター島、メソポタミアなどの多くのすぐれた文明が滅んできたのも事実である。

 だから、文明の滅亡というのは無視できないテーマだが、私が現在リアルに危機を感じているのは「太陽嵐」による「電気文明」の終焉である。

 現代は、石器時代、青銅器時代、鉄器時代などになぞらえて「電気時代」となぞらえてかまわないと思うが、この電気時代が始まったのは、せいぜい150年ほど前である。エジソンが白熱電球を発明した1879年以前に遡ることは難しい。


 そして、私が心配している「スーパーフレア」の(記録に残る)最大のものは1859年のキャリントン・フレアだから電気時代以前の話である。

 当時は、実用的な電球さえ無くモールス信号での通信がようやく実用化された時代であったから、大きな被害は無かったが、もし現在同じ規模の太陽フレアがやってきたらどのような惨事になるかはまったく想像がつかない。

 電気文明を完全破壊するほどの大規模な太陽嵐がたった150年前に起こっていることに我々は注目しなければならない。

 1989年にも、カナダのケベック州で9時間におよび大停電を引き起こした太陽フレアが発生している。

 また、太陽の極大期にあたる2003年11月には、「X30」クラスの太陽フレアが発生している。「X30」とは30メガトン級の水爆3億個に相当する爆発である。ただし、太陽フレアは年に1回〜10回の頻度で発生しており、それぞれの規模は30メガトン級の水爆100万個から1000万個に相当する。


 また、太陽フレア以外にも「地球寒冷化」に注目すべきであろう。
 決して世間で空騒ぎしている「地球温暖化」では無い。

 ガリレオ・ガリレイは1612年には太陽黒点の観測を行っていたが、それから約30年後の1645年から70年近くの間ほとんど姿を消してしまった。この時期は「マウンダー極小期」と呼ばれているが、その後1790年〜1830年まで続いた「ダルトン極小期」とともに、黒点やオーロラの発生が極端に少なかっただけでなく、平均気温も低かったことが分かっている。

 干ばつによる食糧生産低下によって生じる飢饉もしばしばあるが、寒冷化による農作物の被害の方が少なくとも北半球では深刻だ。

 1836年の大塩平八郎の乱は、1833年の大凶作を発端とする天保の大飢饉が原因だが、ダルトン極小期の寒冷化によって、すでに農村が疲弊した可能性があるし、凶作もダルトン極小期と無関係では無いかもしれない。

 人類は太陽の恵み無しでは存在できないが、その太陽は巨大な核融合炉で、常に放射線を発生させ続けているということも忘れてはいけない。


(大原 浩)


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とことんやさしい燃料電池の本 第2版









書評:とことんやさしい燃料電池の本 第2版
   森田敬愛 著、 日刊工業新聞社

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●地球温暖化騒動という愚行

 私は、「地球温暖化騒動」は、ほとんど根拠が無いものと考えている。

 もちろん、古代から地球の気温は、何回もの氷河期を挟んで、激しい変動を繰り返しているから、地球の気温が変化しないということでは無い。むしろ、過去の大幅な気候変動に比べれば、現在の地球の気温は、安定的であるということだ。

 そもそも、厳しい氷河期が終わり「地球温暖化」が始まったからこそ、1万年ぐらい前から人類は偉大な文明を築き始めた。地球温暖化と「人類が排出する二酸化炭素」の因果関係を明確に示す証拠などなにひとつないということでもある。二酸化炭素は元々地球の大気中に大量に存在し、二酸化炭素のおかげで植物は生育できるのである。

 ちなみに、シアノバクテリアが登場して、酸素を大量に放出するようになるまでは、大気中の酸素は微量で、酸素は生物にとって「致死性ガス」であったのだ。地球史の流れで見れば、大気中の成分も激変しており、狭い視野で「環境問題」を騒ぎ、莫大な社会的負担を行うことはばかげている。

 したがって、電気が二酸化炭素を排出しないということにも、さほど意味が無いのだが、その話さえ、本当はまやかしなのだ。


●電気はクリーンでは無い

 電気がクリーンエネルギーであるというまやかしがはびこっている。確かに電気・電流そのものは、排気ガス、二酸化炭素などを排出しない。

 しかし、まず電池には多様な「有害物質」が使われており、太陽光パネルなどではすでに用済みとなったパネルの「廃棄処理」の問題が生じている。

 太陽光パネルだけでもこのようなありさまだから、世界中の車が電気自動車になって、その電池の廃棄問が生じたときの影響は恐ろしい。規模で言えば、原子力発電所の廃炉より深刻になるのではないだろうか?

 また、電気そのものがクリーンであったとしても、世界の発電を見れば、石炭火力が約40%、天然ガスが約20%、水力発電が約17%、原子力が約11%。原子力を含めれば、自称環境保護運動家が主張する環境にやさしくない発電が7割以上を占めているのだ。
(詳しくは 現代ビジネスの2018年8月27日の記事
騙されるな、空前の電気自動車(EV)ブームは空振りに終わる
 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57205?page=3 を参照)

 この状況で、電気がクリーンだなどと叫ぶのは、ほとんど詐欺に等しい。


●水素も化石燃料から生産する

 もう20年以上前のことだが、航空機をルーツとする某自動会社の技術者から「燃料電池というのは、海に無尽蔵に存在する水素を使う究極のエネルギーだ」という話を聞いたことがある。

 確かに、水素というのは宇宙の基本元素であり、すべての元素は水素が核融合した結果生み出される(鉄までの元素は太陽内部の核融合で生まれる。それ以上は超新星爆発など・・)。したがって、地球だけでは無く宇宙中に水素があふれている。

 しかし、「原理」と「実用」はまったく異なる、例えば、水から電気分解によって水素を分離できるが、その電気分解に使う電力は、前述のように大部分が化石燃料から生産されるのだ。この方式はそもそも環境にとって意味があるとは思えないし、コスト的に見合うものかどうか・・・・

 実際、現在利用されている水素の大部分は、コークスや苛性ソーダなどの製造過程の副産物を除けば、「水蒸気改質法」と呼ばれる石油や天然ガス(化石燃料)と水蒸気を触媒上で反応させることによって量産されたものだ。

 つまり、燃料電池(FCV)に使う水素も、現在のところ化石燃料由来で、水の電気分解などで、クリーンかつリーズナブルなコストで生産する方法が見つかっていない。

 ちなみに、FCVに使われる(PEFC=固体高分子型燃料電池)には触媒としてプラチナが必要である。FCVの開発当初は1台あたり200グラム使われていたといわれるが、現在は1台あたり20〜30グラム。トヨタ1社の年間生産台数と同じ1000万台がFCVとして市場に供給される場合、総量は200トンから300トンになるが、これはプラチナの年間生産量200〜250トンに匹敵する。こちらの資源御制約からも、FCVの前途は多難だ。


●結局、現代文明は化石燃料とともに始まり、化石燃料とともに終わるのか?

 人類の近代文明は、1800年頃の「産業革命」とともに勃興した。それ以前の文明とは全く質的に変化したと言ってよい。

 当初は石炭、その後は石油という「究極のエネルギー」によって、現代文明が爆発的に発展したから、人類が「化石燃料の次」のエネルギーを模索するのは当然であるが、私がこれまで丹念に調べた結果では「化石燃料」の次を担うエネルギー源など全く生まれていない。

 再生可能エネルギーなどお笑い草で、風力、太陽光、潮力、水力などは有史以前から存在するが、効率性が低く、しかも現代の複雑なネットワークを支えるには不安定すぎる。

 結局、近代の文明は化石燃料のおかげで咲いたあだ花にしか過ぎないのかもしれない。エネルギー源としてだけでは無く、プラスチックや化学繊維など身の回りの製品のほとんども石油などの化石燃料からできている。

 多くの古代文明は、豊かな自然環境のおかげで発展し、その豊かな自然環境の変化のせいで滅亡したなどといわれるが、近代文明も化石燃料という環境のおかげで発展し、その変化によって滅亡するのではないだろうか?

 だから、化石燃料を目の敵にするなどもってのほかである。化石燃料と共存することこそが、人類生き残りの正しい進路なのである。化石燃料は近代文明の大恩人であり、これからも強力な守護者なのだ。

 化石燃料が枯渇するからと言って、再生可能エネルギーに巨大かつ無駄な資金や労力を投じるのは、後の時代の人々から見れば「飢饉を食い止めるために、大量のいけにえを神にささげた古代人」と同じくらい野蛮なのかもしれない。


(大原 浩)


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書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎





 書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎
 ジャレド・ダイアモンド 著 草思社
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●「愛と思いやりの社会」と「恐怖と暴力で支配される社会」

 本書は<銃・病原菌・鉄>を主題とした文明論であるが、人類の「コミュニケーション」について述べた本とも言える。

 「銃による殺し合い」、「病原菌による感染」、「鉄という「知識」の伝達」はどれも、人間と人間の間のコミュニケーションによって発生する。

 著者は「我々が未開だと思っているアボリジニなど狩猟採取生活をしている人々の方が個体としては優秀だ」と述べている。

 筆者も全くその通りだと思う。例えばアボリジニに限らず、ナイジェリアなどでも「弱い乳幼児」はすぐに死亡する。厳しく言えば自然淘汰だ。日本のような先進国ではごく当たり前の「保育器」など提供されない。

 また、高齢者も自分で自分の面倒を見ることができなくなれば自然死を迎える。日本をはじめとする先進国のような長寿社会とは無縁であるし、バリア・フリーや寝たきり生活を支える社会的基盤も無い。

 つまり、先進国社会では、自然淘汰では排除されえるはずの「弱い人々」を高い社会コストをかけて支えているのだ。

 このことは、一見すると無駄なことのように思えるので、共産主義やファシズムなどの国々では「優性主義」に基づいて、「役に立たないように思える弱者」をターゲットとした虐殺が繰り返されてきた。

 しかし、これは人類がどのように発展してきたのかを理解しない愚かな考え方である。

 人類が発展できたのは巨大な「社会」=「チーム」を構築する能力がすぐれているからである。

 例えば、初期の狩猟採集社会では、せいぜい数十人くらいまでの部族単位で行動していたが、より大きく強い部族に吸収される形で、社会(組織)が成長し、国家と呼ばれるものにまで巨大化した。

 例えば、1億人(匹)とか3億人(匹)という単位の集団は、大型哺乳類では到底考えられない大きなものである。

 この巨大集団は二つの要素で統率されている。「暴力と恐怖」と「愛と思いやり」、つまり鞭と飴である。

 どのような先進的な国でも、凶悪犯罪者は暴力によって死刑に処せられたり、刑務所に押し込められたりする。そして、その恐怖が犯罪を抑止し、治安を保つ。

 しかし、それだけでは獣にしか過ぎない。人間だけとは言わないが、少なくとも近代において人間社会を維持する重要な要素として「愛と思いやり」は欠かせない。

 例えば、ギリシャ・ローマ時代のガレー船の漕ぎ手や、かつての米国南部の農園のブラウン人(黒人)奴隷たちを鞭うって無理やり働かせるのは可能であっただろう。ただ、労働を強制する奴隷労働は共産主義の計画経済(働く個人の収入を認めない共産主義は農奴制と全く同じ仕組みで、荘園領主が共産党に変わっただけである)でその非効率性が明らかになったし、豊臣秀吉の墨俣一夜城などの土木工事での成功は、やる気の無い人夫たちにいくら労働を強制しても無駄で、インセンティブを与えてやる気にさせることが、どれほど効率性が高いかを如実に示している。

 したがって、自然淘汰で排除されるはずの弱者を救い上げ守る「愛と思いやりの社会」の方が、「恐怖と暴力で支配される社会」よりも優位に立てるのだ。


●創意・工夫を鞭で支配できない

 人間社会が高度な社会を築くことができるようになった最大の理由は、農耕によって余剰生産物を生み出すことができるようになった点にある。

 酋長も皆と同じように狩りに出かける部族社会での専門化は、総人数の点と食料獲得のできない人々を養うことが困難であるという二つの点で実現可能とは言えない。

 余剰食糧の生産だけでは無く、それを貯蔵する手段の発達によって社会集団が大きくなり、専門家を多数抱えることができるようになった。

 この専門知識の集積と「交換」によって、驚くほど高度な文明が人類の歴史と比べれば1瞬ともいうべきここ1万年ほどの間に発展した。特に産業革命以降の驚異的発展をグラフ化すれば、あっという間に天空まで届きそうな驚異的スピードである。

 重要なのは、このような知識=創意・工夫は、より多くの「交換」が行われることによって加速するということだ。

 過去の歴史において、人口密度の高さと社会集団の規模が「交換」を促す重要な要素であった。それは現在でも同じだが、通信技術が発達した現在では「自由な交換」がより一層重要になってくる。

 例えば、ファシズムや共産主義が支配する社会で、自由な情報の交換は望めない。したがって、自由な交換が可能な、資本主義・民主社会が極めて有利なのである。

 米国が金融やITで派遣を握ることができたのも「交換が自由な社会」であるからだ。

 逆に人民を恐怖と暴力で支配する、ファシズムや共産主義の国々では優秀な研究者や起業家の自由な創意工夫が生まれにくい。いくら鞭で打っても、バイオやITなどの先端研究で勝つことはできない(盗むことによって追いつくことはできるかもしれないが・・・・)。

 結局、自然淘汰の結果選ばれた人々が個々人としては優秀であっても、「恐怖と暴力が優勢である社会」は「愛と思いやりが優勢な社会」に、社会(チーム)全体としては勝てないのである。


(大原 浩)


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孫子と三賢人のビジネス その8



産業新潮 
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
5月号連載記事


■その8 一撃必殺

●熟慮して行ったたった一つの決断が成功しないのなら、それより集中力が劣った多数の決断がうまくいくはずが無い



 ウォーレン・バフェットは小見出しのような警句を発しています。
 しかし、世の中の大多数の人々の考えは違うようです。以前ある投資家の方とこんな会話をしたことがあります。

 「大原さん、私はものすごくたくさんの利益を投資で稼ぎたいんです。そこで、できる限り売買の回数を増やしたいんですが、やはりコンピュータにやらせた方がいいですか?」

「???投資は必ずしも儲かるとは限りませんから、たくさん売買すればよりたくさんの損をすることになるかもしれませんよ・・・」

「大原さん、1万円での取引でたった百円のもうけでも、10万回やれば1000万円の儲けになるわけです。専門家なのにこんな簡単な計算もできないのですか?」

「・・・・・」

 賢明な読者なら、この話が全くかみ合っていないのが良くお分かりになるかと思います。ほとんどの投資家の方は、「投資をする前には儲かることしか考えず、投資した後は損をしたことばかりを後悔する」ので、このような発言が出てくるのでしょう。

 投資家がたくさん売買して儲かるのは、(証券)取引所と証券会社などの金融機関です。それに対して、投資家は取引のたびに手数料を支払うわけですから、その都度手数料という損が確実に積み上がります。
 また、(自分から行動を起こす場合)買い手の場合は売値、売り手の場合は買値でしか取引できませんから、売り根と買値の差額の「損」も無視できない金額になっていきます。

 バフェットが「一度企業(株式)に投資したら、できる限り永遠に保有」するのは、企業の将来に自信があるだけではなく、頻繁な売買による無駄な出費を避けるというのも重要な理由の一つです。

 少なくとも、M&Aの世界で、やたらに買収を繰り返す企業と、投資先を厳選し一撃必殺を目指すバフェットのどちらが成功しているのかは、説明するまでもありません。


●一撃必殺とベンチャー・企業再生

 孫子は、「戦いが巧みな人は、【勢い】を岩石をも貫く水の流れまで高め、ライオンが獲物をとらえるときのように、一瞬の【一撃】を強烈なものにする」と述べています。まさに、バフェット流ですが、これには一つの大きな前提があります。これはあくまで戦いに勝つための「戦術」ということです。

 例えば、すでに軍隊が存在(既存軍隊)し、その軍隊を最大限に活用して勝利を重ねていくための法であるということです。ですから、これから軍隊をゼロから整備する場合(ベンチャー軍隊)は話が別です。

 また、バフェットも「成功したビジネスに投資して、より一層成功させる」タイプの投資家・経営者です。したがって、その投資先のほとんどは、順調な経営を行っている会社です。時々、世間一般から「問題を抱えている」とみなされる企業に投資をすることがあります。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
5月号をご参照ください。


(大原 浩)


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書評:二宮尊徳 財の命は徳を生かすにあり






 書評:二宮尊徳 財の命は徳を生かすにあり
 小林惟司 著、ミネルヴァ書房
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●真の革命家・尊徳

 二宮尊徳(金次郎)は歴史に名を残す有名人だが、その功績・人柄が誤って伝えられている典型であろう。

 戦前の修身の教科書に、明治天皇の次に多く取り上げられていることから、軍国主義教育と結び付けられがちだが、むしろ尊徳は戦後GHQや米国人の研究者から「リンカーンに匹敵する民主主義の巨星」とほめたたえられたくらいである。

 まず、農民から幕臣にまで大出世したことだが、本人が望んだことでは無い。むしろ、尊徳のすぐれた行政・財務改革に嫉妬・畏怖した小田原藩の家老をはじめとする武士の抵抗勢力が、小田原藩の改革に口を出せないように祀り上げてしまったというのが真相だ。

 実際、ほぼ同じ時期に小田原藩はとてつもない功績を残した尊徳に、藩への出入りを禁止するという忘恩行為を行った。逆に言えば、尊徳は権力を握る武士たちから恐れられていたのである。

 さらには、入浴中に槍で突き刺されそうになるという暗殺未遂事件まで起きている。

 言ってみれば、キューバ革命の立役者チェ・ゲバラのように、民衆とともに国を創っていこうという強い意志を持った人物であったのだ。

 ただ、悲しいかなゲバラは暴力で政府を打倒し、恐怖と暴力で民衆を支配する共産主義の道を誤って選択したために、悲劇的な最後を遂げることになった。

 それに対して尊徳の選択は、マハトマ・ガンジーの「非暴力不服従」に似ている。江戸時代の革命行為といえば一揆や打ちこわしであったが、それらには一切関与しなかった。

 非暴力について言えば、暴力行為で、農民(庶民)の暮らしが良くなるわけでは無い。むしろ新田を開発し、治水などの土木工事を行い、既存の田畑の生産性をあげることこそ、農民を幸せにすることだという信念があったのだと思う。

 また不服従も徹底している。いくら藩や幕府の重臣たちからの依頼であっても、行政・財政改革が成功する条件がそろっていないと考えるときっぱり断る。封建社会ではとても勇気のいる行為だ。

 過去に素晴らしい行政・財政改革を行った実績があるとともに、その恩恵を受けた農民たちの支持があったからできたとも言える。

 現代で言えば、一介のサラリーマンが、財務省・厚生労働省などの官僚のていたらくに悩む首相から任命され、(地域限定とはいえ)行政・財政改革のリーダーになるようなものだ。

 しかも、尊徳は「分度」という財政支出の上限を決めなければ、仕事を引き受けなかったから、官僚である武士の給与は事実上尊徳が決めることになる。武士(官僚)たちが尊徳を憎んだのも当然といえる。

 実際、現在の日本の官僚組織は幕末の武士よりもひどいかもしれない。尊徳のような真の革命家が登場することを願う。


●ダヴィンチ・空海と尊徳

 ダヴィンチも空海もマルチ人間として有名だ。同じように尊徳もマルチ人間である。

 科学の面では、治水工事、農業秘術などにおいて、当時最先端の技術を駆使している。ブラックな長時間労働では無く、科学的農業によって生産性を向上させたことが、世間に知られていない「二宮マジックの秘訣」である。その知識・洞察は、薪を背負いながら本を読む(この話そのものは創作のようだが…)読書家であったことと、農業の現場を科学的な視点で観察したことによって得られた。

 また、空海も宗教家ではあるが、唐から学んだものや修験道者のものといわれる豊富な知識を使った治水工事などで、農村を豊かにしたことが現在まで敬われる理由だ。

 また、驚くべきことに、複利の概念をきちんと理解し実践している。
 例えば、元金1両を年間5%で運用すれば、180年後には6800両になる(100万円が68億円になる)。尊徳の財政改革においてこの複利の概念は極めて重要である。

 ただし、得た利益を使ってしまっては、この複利効果が効かないから、「分度」(支出限度)を定めてその範囲で生活することが極めて重要なのだ。

 さらには、彼の弟子たちによって日本初の信用組合である掛川信用組合(現在でも掛川信用金庫として活動している)が設立された。

 尊徳が確立した互助金融組織「報徳講」の「無利息貸付」は画期的なものである。当時15%〜20%という高利で借金をしていた多くの人々が救われた。期限が来たときに「元金」に「お礼」を添えるのが通例であったが、概ね1年分の利息程度(借入期間は5年〜10年)であったし、あくまで任意である。

 再建(発展)途上においては、元利を徴収しないというのも、現在の再生ファンドやベンチャーファンドと同じである。

 尊徳のたぐいまれな能力と先見性、さらにはその哲学は現在でも価値がある。残念ながら敗戦後、軍国主義の象徴として銅像などが破壊されたのは悲しいことである。

 GHQ(米国)は、むしろ尊徳の著作を米国独立宣宣言にも匹敵する「民主主義」のお手本と評価し、戦後各種団体の名称から冒頭の「大」の文字を外すよう指導を行った時も、尊徳の教えを受け継ぐ「大日本報徳社」は、民主主義の偉大なリーダーとして例外にしたほどである。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
(毎週木曜日連載)


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書評:生物化するコンピュータ





 書評:生物化するコンピュータ
 デニス・シャシャ&キャシー・ラゼール著、講談社
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●デジタルは原始的である

 「生物化するコンピュータ」という言葉の持つ意味は大きい。人類の文明において「デジタル」が表舞台に登場してきたのは、ここ半世紀ほどのことである。それまでは、すべて基本的にはアナログであった。

 現在のトルコに残された、現存する人類最古の遺跡とされる「ギョベクリ・テペ」の時代から約1万年、同じ祖先からサルと分岐したのが2800万年から2400万年前頃と推定されていることを考えれば、ごくごく最近の話だ。

 だから、世の中で「人類はアナログからデジタルに進化する」という考え方が流布するのも仕方が無いのかもしれない。


 しかし、これはまったく間違った考えである。

 生物はデジタルからアナログへ向かって進化しており、特に人間の脳はアナログだからこそ、高度な情報処理ができるのだ。

 例えば、人間の両目の視野は実のところ両手を広げたときに先端が見える180度あるのだ(実際に意識を集中すると前を向いたまま、両手の先端が見えるはずである)。

 それだけの範囲のいわゆる「動画情報」をすべて脳で処理しようとすると、あっという間にパンクする。だから、脳は普段視線の先のごく狭い範囲だけの情報を丁寧に処理し、その他の情報は、ほとんど右から左に流してしまうから、見えているようには思わないだけである。

 つまり、脳はアナログでファジーな情報処理をしているからこそ高機能なのである。今騒がれているAI(人口知能)は、実のところチェス・碁・電話の受け答え・クイズなど脳が処理している膨大な情報の一部だけをとりだして、デジタルで処理しているだけに過ぎない。

 だから、人間の脳と同様に高度な処理を行うことができる本当の意味でのAIの登場はまだまだ先であり、コンピュータはまだまだデジタルという原始時代にいるのである。

 したがって、コンピュータの進化が「生物化」を目指すものであることは間違いない。


●アナログの方がデジタルよりもすぐれている

 例えば、コンピュータのプログラムを書くときに、コンピュータは壊れないことを前提とする。デジタルはすべてを「正確に決定」しなければならないから、必然的にそうなるのだ。

 しかし、実際のところは、地球上では「宇宙線」あるいは「素粒子」が飛び交っており、コンピュータはその影響を受ける。コンピュータがフリーズする理由の一つは「宇宙線」や「素粒子」によって回路・プログラムが損傷することである。

 もちろんDNAも「宇宙線」「素粒子」によって傷つくが、それはファジーな生命システムによって修復される。ちなみに、生物の死は、DNAを修復し続けると、ある段階から修復するよりも、新品に取り変える方が効率的になるという理由で存在する。そもそも、個体の死と誕生が無ければ、次の世代で進化することがでない。

 つまり何十年も乗ったオンボロ自動車は、燃費も悪くすぐに故障するから新車(新生児)に乗り換えたほうが効率的だというのが自然界の原理である。

 確かに、デジタルはいわゆる「デ―タ処理」にはすぐれている。会計データ・統計データをはじめとする処理能力は、人間をはるかに凌駕する。しかし、その能力は「ゼロ」と「1」を行ったり来たりする、賽の河原の石積みを辛抱強くかつ素早くこなすもの以上では無い。


 例えば、蝶の羽の模様を考えてみよう。
 この図柄をデジタルでデザインしてみたとしたら、その計算量は膨大だ。
 しかし、例えば盆の上に張られた水の上に何色かのインクを落とすようにデザインしたら、非常に効率的だ。

 自然界のデザインというのは、アナログだからこそ生き残ったのだ。

 そもそも、生物というのはデジタルでは無くアナログだからこそ、エントロピーの法則に逆らって誕生し成長できるのだ。

 また、デジタルは「答えが確実」にある分野では強いが、「答えがあるのかどうかさえ分からない」問題には非常に弱い。

 例えば「未来に何が起こるか」という問題には、デジタルは答えようが無い。しかし、生物というのは、その将来の不確実性に対して、何十億年もの間、アナログで対処してきたのだ。


 <「不確実な未来」には、ファジーなアナログで対応するのが効率的だ>というのが、長年の生物の進化の中で得られた結論である。

 したがって、DNAコンピュータなど、生物にヒントを得たコンピュータが今後発達するのは必然といえる。


(大原 浩)


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書評:二宮金次郎とは何だったのか




 書評:二宮金次郎とは何だったのか 臣民の手本から民主主義者へ
 小澤祥司 著、西日本出版社
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●二宮金次郎の虚像

 今、二宮といえば、嵐(ジャニーズ)の二宮和也氏をさすのであろうが、二宮金次郎もたぶん日本人なら誰でも知っている有名人である。

 ただ、「いったい何をやった人なのか?」ということについて、明確に答えることができる人は少ないのではないだろうか?


 二宮金次郎は、江戸時代の後期、相模の国(現在の神奈川県)小田原藩の貧しい農家に生まれた。洪水で田畑を失い没落した家の再興を若くして果たし、その再興手腕を藩の重臣の家の再興でも活用。最後には幕臣にも取り立てられた立志伝中の人物である。

 その活躍は、主に現在の栃木県で行われたが、その名声は近隣にも鳴り響いた。

 その中でも、静岡県の掛川市は傍流とも言えるが、後の明治期に至るまで、二宮金次郎の始めた<報徳運動>が綿々と受け継がれ、明治以降の日本政府に<報徳運動>の影響を強く与える礎となった。修身の教科書に天皇の次に二宮金次郎が多く登場するものも、このような流れを受け継いだからである。

 私は、小学校3年生まで、掛川市にほど近い浜松市の小学校に通っていた。

 当時の私は<活字中毒>で、授業が終わるとすぐに図書室に駆け込み、さらに下校を促す「蛍の光」が流れると、家に帰る時間が惜しく、読みかけの本読みながら下校した。当時、家までの10分ほどの道は信号も無く、自動車が通ることもめったになかったので危険では無かった・・・

 そのため、校庭にあった「薪を背負いながら本を読む」二宮金次郎にはとても親近感を持っていた。

 しかし実際は、江戸時代の貧しい農民の子であった金次郎が当時とても高価であった本など買えるはずが無いわけだから、これはたぶん作り話である。

 実際、一般に流布している金次郎にまつわる話は、「虚像」に基づくものが多い。


●二宮金次郎の手法と哲学

 それでは、二宮金次郎の実像とは何なのか。手法面からまとめてみれば次のようになる。

1)「分度」を定める。
  分度器の分度と同じ意味だが、その家(藩)の収入に見合った支出の上限(分度)を定めることが二宮流「財政再建」の一歩である。二宮は、この時に「過去データ」を重要視した。例えば過去10年間の年貢がどのくらいなのかを調べて平均値を出し、その平均値を分度としたのである。これにより、凶作・豊作などの不確定要因に大きく左右されずに、長期的視野で財政再建を行うことができた。

  分度を定めるのは簡単だが、それを守らせるのは困難だ。
  例えば、日本の国家財政は、かなり前から借金だらけで破たん寸前だと騒がれている。ところが日本政府の「分度」はまったく守られていない。
  税収から考えれば50兆円が日本の分度だと考えられるが、実際には国債を発行し続けてその倍の約100兆円を使い続けている。

  誰もが総論賛成で、各論反対だから、実際に分度を守らせるのは並大抵のことでは無い。百姓のせがれの二宮が、上級武士たちを管理監督したのは画期的なことであり、彼が常に不退転の決意で財政再建に取り組んだことが気迫を生み、堕落した武士たちを動かしたのであろう。

  逆に、武士では無いということがしがらみから彼を解放ししただろうし、農民に武士が指導を仰ぐこと自体、武士が相当な危機感を持っていたことの現れである。

2)再投資する。
  二宮の功績は、単に節約したことだけでは無い。その節約して溜めた資金を再投資したことが大きな利益を生み、再建がスムーズに行われたのである。

  二宮自身の家の再興が顕著な例だが、彼は丁稚奉公で小金をためた。そして、なんとか溜めた資金で、猫の額ほどの土地を買い戻した。しかし、彼はそれを自分で耕さずに地主として小作人に耕させたのである。

  それからも、丁稚奉公で溜めた資金と小作料で土地を買い戻しては小作に出すということを繰り返す。最初はちっぽけであった所有地が、少しずつ大きくなり小作料がべき乗的に増大することによって、急速に所有地も増えていくようになる。

  つまり二宮が短期間で家を再興できたのは、巷に流布する「ブラックな長時間労働」のお蔭では無く、知恵をはたらかせた資本家としての行動のおかげなのである。

  現在で言えば、ちっぽけなワンルームマンション投資からスタートして、その家賃や自分の勤労収入で何十棟ものアパートオーナーになるようなものである。

3)利息は後払い。
  また、二宮が主導した「報徳仕法」の活動の中では基本的に無利息で資金を貸し付けた。例えば、5年間無利息で貸し、再建(あるいは事業が成功)した5年後に「お礼」を支払う。

  再建途上で元利を払うのは負担が大きいし、再建の可能性を低めることにもなる。だから成功してから「出世払い」する方式は合理的だ(お礼は任意だが概ねの基準があった)。

  現在で言えば、ベンチャー事業に出資して、上場などの際に利益を得るベンチャーキャピタルと同じ考えである。

  もちろん千三つといわれるベンチャー事業に対して、農業などははるかに成功の確率が高いが、それでも「ニワトリに金の卵を産むまで餌を与える」というのは、同じ考え方である。

4)信用を大事にする。
  前述の「利息後払い」のベンチャーキャピタル的方式は、貸し付けた相手が誠実であるということが大前提である。

  現在のベンチャー企業によく見られるように、「出資金を受けとった途端に遁走」ではシステムが維持できない。「報徳」という思想に導かれ、人間関係が濃密な村社会であるからこそ、無担保で資金を貸せるし、回収も確実だ。

  また、次にだれに貸すのかは合議で決められるのだから、貸してもらう側の人選も日頃の行いなどから、きっちりと行われる。

  金融では「信用の創造」によって、資金流通が潤滑に行われるが、「信用」の源泉は、結局長期間にわたる人間同士の濃密な付き合いの中で生まれるのである。

  ちなみに、日本最初の信用組合とされる掛川信用組合(勧業資金積立組合が前身、現在掛川信用金庫として営業)が報徳運動の中心地掛川で二宮尊徳の教えを受け継ぐ岡田良一郎の手によって生まれたのは偶然では無い。

5)資本主義と共産社会の融合
  二宮が活動したのは、黒船が浦賀に来航するころまでの、江戸幕府が崩壊ヘと向かう混とんとした時代である。

  だからそ、農民出身でありながら幕臣にまで上り詰めたのだが、江戸時代の村を中心とした「共存社会」と「再投資」、「信用の創造」など極めて資本主義的な経済政策との橋渡しを行った人物とも言える。


 資本主義の閉塞感がある現代に、「人間同士の絆を基礎にした報徳運動」を基礎にした「人間資本主義」とでも呼ぶべき卓越した思想を生み出し普及・啓蒙した二宮金次郎の功績は、改めて評価されるべきだと考える。


(大原 浩)


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孫子と三賢人のビジネス その7



産業新潮
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
4月号連載記事


■その7 勝利を収めてから戦闘を始める

●絶対に損をしないこと

 バフェットの金言の中には次のようなものがあります。

一、絶対に損をしないこと
二、一、の内容を絶対に忘れないこと。

 念の入った表現ですが、「損をする」ことが大嫌いなバフェットらしい表現です。しかし「損をしない」ということは、「挑戦しない」ということとは少々違います。

 バフェットの投資先の大多数は優良な大企業ですが、その購入のタイミングは、世間一般の常識とは異なった大胆なものです。
 古くはコカ・コーラ。同社に投資を始めたときには、自称専門家などから「成長の止まった企業を高値掴みした」と馬鹿にされましたが、その後の同社の成長ぶり、株価の上昇はよく知られています。
 また、ITバブルでは「テクノロジーがわからない時代遅れのポンコツ」とマスコミに揶揄されながらも、ドットコム銘柄などのいわゆるIT関連には手を出さず、後に彼の正しさを証明しました。

 さらに、リーマンショックでは、恐怖におびえる市場の大多数をしり目に大型の投資を次々と大胆に実行していきました。


 バフェットの「絶対に損をしないこと」というのは、損をしたくないから物影に隠れて縮こまっているとか、何もしないでただ眺めているというようなことを意味しているのではありません。物事を実行するときには、まず自分自身に対して「絶対に損をしない」と納得させなさいということです。
 熟慮の上「絶対に損をしない」という確信を持っているからこそ、世間の多数派の考えの全く逆のことを行っても恐ろしくは無いのです。

 ただし、どのような確信を持っていても、人間の能力には限界があります。
 「神様」と呼ばれるバフェットが、それだけ熟慮をした判断であっても、間違える(損をする)ことはあります。しかし、彼がすごいのは、その間違いを率直に認めることです。
 有名な「バフェットからの手紙」の中で、毎年のように自分の犯した間違いを発表し、株主だけはなく全世界(現在はホームページで誰でも読むことができる)に公開します。もちろん全体としては大成功しているバフェットだからこそできる、という見方もあるでしょうが、このように自分の失敗を大胆に公表しているからこそ、「絶対に損をしないこと」という言葉が胸に刻まれ、極めて失敗の少ない投資を行っているのが「バフェット流」であると言えます。


●投資を始めたら投資家のすることはほとんどない

 バフェットは「1年間株式市場が閉鎖されても平気でいられる企業だけに投資をすべきだ」といいます。まさに「勝利を収めてから戦闘を始めている」がゆえに、途中で何かが起こって株価が乱高下しても気にする必は無いのです。実際「すでに勝利を収めている」投資家が、途中で起こる細かなことを気にする必要があるでしょうか?

 ところが、大多数の投資家は「勝てるかどうかわからない」状態で投資を始めてしまいます。「勝てるかどうかわからない」状態ですから、いつもびくびくしています。そして、市場のちょっとした変化でおたおたした挙句「安値で売って、高値で買い戻す」というような馬鹿げたことを繰り返す羽目になります。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
4月号をご参照ください。


(大原 浩)


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書評:銃・病原菌・鉄(上)



 書評:銃・病原菌・鉄(上) 1万3000年にわたる人類史の謎
 ジャレット・ダイヤモンド著、草思社
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 大航海時代以降、欧米が繁栄し、アジアやアフリカなどの人々を植民地化し蹂躙したのは偶然か?必然か?

 本書では、欧米人が現在の世界を支配しているのはタイトルの三つが直接的な原因だと考えているようだが、それは(下)で議論が展開される模様だ。


 (上)ではその三つの直接的原因の遠因について議論が展開される。

基本的には
 1)人類がどのように余剰生産を生み出し、それを活用したのか?
 2)余剰生産を生み出すための、栽培化、家畜化は、世界のそれぞれの地域でどのように発展したのか
 3)後年、南米大陸で、自らの肉体を細菌兵器化し、アステカ人をほぼ全滅させたスペイン人をはじめとするヨーロッパ人は、どのように免疫を獲得したのか?

に関する議論を展開している。


 栽培化・家畜化については、世界に数え切れないほど存在する動植物のうち、栽培化・家畜化に向いているものはごくわずか(例えば植物では主に14種、さらに世界規模で生産されているのは、そのうち小麦、トウモロコシ、コメなど数種しかない)しかなく、面積が広く、気候に恵まれたユーラシア大陸に、その種と良好な生育環境が集中した。

 さらには、東西に広がるユーラシア大陸では、ほぼ同じ緯度の地域で速やかに農耕文化が伝わったのに対し、南北に伸びるアフリカやアメリカ大陸では、緯度ごとに生育環境が異なるので、伝達が難しかった。

 その結果、ユーラシア大陸で「余剰食糧」をベースにした文明が花開いたのである。


 また、家畜化によって、その文化圏の人間は動物由来の病原菌に対する免疫力を身につけた。特に、中世のヨーロッパでは、農民が家畜と一つ屋根の下で生活するのはごく普通であり、病原菌も共有した。

 現代でも、エイズやサーズなどの恐ろしい流行を世界に引き起こす病原菌は、動物由来であり、人間に感染することにより病原菌が変化するのだ。

 したがって、家畜化が遅れていたアメリカ大陸のインディアンたちはまったく免疫を持たず、<歩く生物化学兵器>によってほぼ全滅に追い込まれたのだ。


(大原 浩)


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書評:ニュートン2019年4月号統計と確率




 書評:ニュートン2019年4月号統計と確率
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 投資の神様ウォーレン・バフェットは、「投資をするのに高等数学が必要なら、私はいまだに新聞配達をしていただろう」というジョークをとばしている。

 実際、私の35年以上におよぶ投資人生(バフェットの半分ほどしかないが・・・)においても、高等数学が必要な場面に遭遇したことが無い。

 一時<金融工学>なるものが流行って、ディーラーや経済学者がやたら難解な数式を振り回して暴れたが、投資ではほとんど成功できなかった・・・・ノーベル賞経済学者を集結させたLTCMは、金融業界を揺るがすような破た
んをしている。

 バフェットが鋭く指摘するのは、「目の前に2メートルの柵があれば、それをよじ登ろうとせずに、周りに30センチの柵が無いか探すべきだ」ということである。私は、同じことを「鼻からうどんを食べる必要は無い」と言っている。

 難しい話をされると、世の中の人々は「何かすごいことを言っているんだ」と思いがちだが、真実・真理とは極めて単純であるはずだ。

 そして、投資の世界では(よく探せば)30センチの柵が見つからないことはまずない。だから、足し算、引き算、掛け算、割り算の四つができれば、高等数学など知らなくても、バフェットのような偉大な投資家になれるのである。


 ただし、一つだけ欠かせない素養がある。それは「確率」の概念である。
 もちろん、数式としては前記の四つだけで十分である。

 しかし「確率」というものは、人間の直感に反するので、ほとんどの人が間違って理解している。

 したがって「確率」を正確に理解できれば、直感で(間違った理解で)取引をしている投資家をしり目に大成功できる。


 バフェットは、いわゆる株式(企業)への投資でも「正しい確率」の概念によって、大きな成功を収めているが、見過ごされがちなのは、保険ビジネスでの確率の活用である。

 バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、投資会社と思われがちだが、米国でバークシャーの証券分析を担当するのは「保険会社」を専門とするアナリストである。つまり、バークシャーは保険ビジネスが主要事業なのだ。

 GEICOのように一般に自動車保険を販売するビジネスの規模もそれなりに大きいが、基盤となるのはアジット・ジャイン率いる損害保険ビジネスであり、その中でも「再保険」が高い収益を上げている。

 保険とは要するに「逆ギャンブル」である。つまり、「当たらなければ儲かる」仕組みだ。だから、<どのくらいの確率で当たって、その時にどのくらいの損が出て、それが(確率的に)払い込まれる保険料と見合うのか>を見定めるのが、損益の分かれ目だ。

 バフェットが、スカウトしたアジット・ジャインは、この「確率」のセンスが抜群で、他社がしり込みするような保険を「(実際のリスクよりも)はるかに高い保険料」で引き受けて多額の利益を得た。

 直感的には確率が高くてリスクが大きく見える保険も、きちんと確率的に分析すれば本当のリスクは少ないことを理解しているからできる技である。


 株式投資では「当たればもうかる」のだから、保険よりももっとわかりやすい。

 バフェットが「他人がパニックに陥ってろうばい売りをしているとき」に買い向かうことができるのも、正しい確率をきちんと理解しているからである。


 ニュートン4月号では、この確率とそれに深く関係する統計について、極めてわかりやすく明瞭にまとめている。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
(毎週木曜日連載)


【大原浩の書籍】

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